■主旨文
「京都会館」は、京都の戦後復興の象徴であり、市民のための公会堂として、高山義三市長のリーダーシップの下、前川國男の設計により、1960年に開館した複合文化施設です。その後、半世紀にわたり、岡崎地区の風景の一部として市民に親しまれ、合唱コンクールや吹奏楽コンクールなど、市民の文化活動の拠点として、幅広く活用されてきました。また、優れた建築として、1960年度の日本建築学会賞を受賞、近年では、DOCOMOMO Japanにより、日本の近代建築100選にも選ばれて海外にも広く紹介されるなど、高く評価されています。
しかし、2011年6月、京都市は、突然、「京都会館再整備基本計画」を策定しました。その内容は、2000席の第1ホールをすべて取り壊し、世界的なオペラを誘致できる舞台をもつ劇場に建て替えるなど、建物の過半をつくりかえようとするものです。この計画に対しては、京都市長あてに、日本建築学会長やDOCOMOMO Japanから、いち早く保存要望書も提出されました。また、京都弁護士会会長からも意見書が提出されています。さらに、京都市が設置した「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」でも、委員から根本的な疑問が提示され、計画の修正を求める「意見書」も提出されました。けれども、計画は変更されることなく、2012年5月、香山壽夫建築研究所によって基本設計がまとめられ、公表されました。
今回の計画の決定については経過が不透明であり、市民には公開されていません。本来、文化施設の改築として喜びと期待をもって堂々と発表されるために制作された完成予想模型すら、公表されないままです。このままでは、建物の価値は壊滅的に失われ、10階建てのビルに相当する巨大な舞台の建設によって落ち着いた景観も破壊され、設立時に謳われた市民のための公会堂としての性格も失われてしまいます。これは京都の未来を左右する歴史的な問題です。
そこで、前回の6月2日に続いて、第4回の緊急シンポジウムを開催します。9月初旬にも予定される解体工事を目前に、その後の経緯や基本設計の内容を確認した上で、最初に、音楽評論家の日下部吉彦さんに、広く音楽文化の視点から、京都会館の基本設計のはらむ問題点をご指摘いただき、その個性を活かしたホールづくりについてお話しいただきます。
続いて、和歌山県橋本市にある木造の高野口小学校(1937年)の保存活動に10年間かかわってこられた経験をもつ建築家の本多友常さんに、既存建物に対する敬意の共有を前提に行われた改修工事から見えてきたものについてお話しいただきます。また、8 月13 日に提訴された京都会館第一ホールの解体差し止めを求める住民訴訟について、弁護団の玉村匡さんから訴えの概要を報告して頂きます。さらに、「京都会館を大切にする会」の代表である吉村篤一さんに、あらためて京都会館の価値と意味についてお話しいただきます。そして、会場からの発言も交えながら、京都会館再整備計画の何が問題なのか、を改めて幅広く議論したいと思います。
■概要
会名 第4回緊急シンポジウム「京都会館のより良き明日を考える−解体工事を目前に問題点を総括する」
日時 2012年8月26日(日)13:30−16:30
会場 京都市国際交流会館アクセス(左京区粟田口鳥居町2‐1,電話:075‐752‐3010,地下鉄東西線「蹴上」駅から徒歩6分)
申込 申込不要,当日先着順,会費無料(カンパ歓迎),定員約70名
問合先 メールkyotokaikan.taisetu@gmail.com HP http://kyotokenchiku.blogspot.com/
主催 京都会館を大切にする会+京都会館再整備をじっくり考える会
■パネリスト(敬称略,発言順)
日下部吉彦(音楽評論家,大阪音楽大学客員教授)+聞き手/西本裕美(オペラ愛好家)
本多友常(建築家,和歌山大学教授)
玉村 匡(弁護士,京都弁護士会所属)
吉村篤一(建築家,元・奈良女子大学教授,京都会館を大切にする会代表)
司会/松隈洋(建築史家,京都工芸繊維大学教授,京都会館を大切にする会呼びかけ人)
■パネリストの略歴
日下部吉彦:1952年同志社大学卒業,朝日新聞社入社,その後、朝日放送(ABC)へ移籍.ABC女性合唱団の指揮や音楽雑誌への寄稿を行う.退社後は関西を中心にクラシック音楽の評論と講義,合唱にまつわる客演指揮,コンクール審査,執筆などの活動を展開.
西本裕美:1995年京都大学工学部石油化学科卒業,技術者として働きながら,環境系の市民運動と研究を行う.同大学院博士課程在学中.デンマークで偶然観たオペラに惚れ込み,以来国内外合わせて年間鑑賞公演数30~40というオペラ漬け生活を送っている.
本多友常:1948年生まれ.1970年早稲田大学理工学部建築学科卒業,1972年同大学院修士課程修了,1972~98年竹中工務店設計部,1977~79AAスクール(ロンドン)に留学,1998年~和歌山大学システム工学部環境システム学科教授.
玉村 匡: 1959 年京都市生まれ.渡辺・玉村法律事務所.京都弁護士会所属.
吉村篤一:1940年京都市生まれ.1963年京都工芸繊維大学工芸学部建築学科卒業.坂倉準三建築研究所入所.1975年建築環境研究所設立.1998〜2003年奈良女子大学教授.現在、大阪工業大学客員教授.主な建築作品に「松ヶ崎の家1」、「12番坂の家」など.主な著書に『地模様としての建築』など.主な受賞に日本建築家協会25年賞など.
松隈 洋:1957年兵庫県生まれ.1980年京都大学工学部建築学科卒業.1980~2000年前川國男建築設計事務所勤務.2000年4月京都工芸繊維大学助教授.2008年10月京都工芸繊維大学教授.博士(工学).主な著書に『近代建築を記憶する』など.
シンポジウムちらしpdfダウンロード